浅草「鷲神社」一の酉に
二葉家菓子舗 とってもステキな"切山椒"
和菓子wagasi−東京のお菓子・菓子パンを歩く」
毎年11月恒例の"酉の市"。
今年最後の市は11月26日土曜日です。
ワタシは三年ぶりに浅草"鷲神社"へ・・・
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注:前半は酉の市、後半が二葉家菓子舗について書いてます、長い‥
・・"一の酉"の11月2日に参詣しました。
はい、今年もまた御菓子につられて。
ほぼ関東ローカルな行事である「酉の市」は
各地で行われる毎年11月の酉の日に行う祭礼に立つ市のこと
いまは祭礼そのものを酉の市と呼んでいます。
なかでも有名なのが浅草「鷲神社」。
江戸後期には参拝客殺到の超人気イベントとなり
歌川広重・豊国をはじめ浮世絵のテーマとしても多数取り上げられています。

歌川広重作:江戸名所百景『浅草田甫酉の町詣』遊女の部屋から酉の市を眺めた構図
幕末のお気楽武士、酒井伴四郎の日記では
「・・・夥しき参拝群衆、爪の立つる所もこれ無く候」と。なんかすごくない?
余談ですけど、厳しいフトコロで食べ歩きにイソシむ伴四郎の日記、自分が重なり笑えます。
さて今年は11月2,14,26日と三の酉まであります。
江戸の頃から三の酉ある年は火事が多いと言われていますが、
三の酉の年って参拝する機会が増えるのでむしろウレシかったりします。
その「酉の市」に欠かせない三大縁起物が
商売繁盛・開運の御守"熊手"(かっこめ)、子孫繁栄の"八頭"、
そして"切山椒(きりざんしょ、きりざんしょう)"。
神社オフィシャルかっこめ 右はオフィシャル最小タイプ(1000円)
熊手だけで200出店、石原家も商売繁盛"かっこめ"
左:今回唯一の八頭売り
切山椒は江戸時代から伝わる東京ローカルなお菓子ですが
(※ほかに山形県鶴岡市に伝わる木村屋の切さんしょなどは東京に入荷することも)
現在では作る店もわずかで東京でだってあまり知られていません。
実際に口にしたことのある人はほんの一握りではないだろうか。
ハロウィンかぼちゃの10000分の一の知名度もないような気がしますので 切山椒振興会(自称)としては広報努力に勤しまないと。
鷲神社境内 切山椒の出店
というわけで。
"切山椒"はいわゆる新粉餅の一種で
新粉や上新粉に砂糖や黒糖、山椒の粉を加えて練り混ぜ、
蒸して搗いた後、のしたものを拍子木型などに切った江戸菓子です。
手でつまめる素朴なおやつは山椒の爽やかな風味とシコっとした食感が身上。
強いて言えば"すあま"のフィンガータイプと言えますが
"すあま"よりもさらに歯切れが良く、甘さもやや控えめです。
袋:左から境内の屋台、二葉家菓子舗、金龍山浅草餅本舗
もともと酉の市では粟餅を〈黄金餅〉として売っていたそうですが、
幕末頃から正月用餅菓子である"切山椒"が酉の市にも進出。
その経緯や切山椒そのものの由来も定かではないのですが
1、山椒は日本最古の香辛料のひとつだし、
2、風邪予防や厄除けになるとされ、
3、葉、花、実、幹、樹皮に至るまであますことなく利用出来る有益性、など
複合的な理由から縁起物として人気を集めたのでしょう。
「暮からの 風邪まだ抜けず 切山椒」久保田万太郎
個人的に馴染深いのは浅草仲見世の最古参店「金龍山浅草餅本舗」の切山椒。
通年こしらえる数少ない店なので長いこと年中ある御菓子、と思ってました。
今年はこのほかに千束「二葉家菓子舗」を予約しました。
臼と杵で搗いた切山椒を酉の市限定で200箱だけ作っています。
ここは鷲神社の傍ら、おそらく神社からもっとも近い和菓子店。
じつは鷲神社は吉原と隣接しており、酉の市の浮世絵にも遊女や吉原遊郭が登場しているほど。

歌川豊国の酉の市をテーマにした作品、左:八頭を手にした遊女、中央:黄金餅を下げた女性、右:熊手を担ぐ小僧(江戸食文化紀行より
二葉家は神社脇から(都内随一のソープ街たる)吉原大門通に向かうそのすぐ手前にありますが、 お店は下町らしい趣の店構え。
ちなみにマイベストたこ焼き「三島屋」から歩いて3分位なんだけどお菓子を買いに来たのは初めて。
戦後まもなくからの什器やガラス瓶。60年以上丁寧に使い込まれている
木製陳列台に並べた菓子は木の番重に。手前に積んだのは切山椒の箱
年季の入った店内は手入れが行き届き、陳列ケースや番重など丁寧に使い込んだ木製品が多く、 独特の魅力に溢れています。
店の設えだけでなく切山椒もそしてほかのお菓子も熟練職人らしいきれいな仕上がりです。
まずは切山椒です。粋筋好みの包みも印象的。
酉の市定番キャラ"おかめ"の掛紙に、紐の結び方などにかつて料亭の注文を多く扱っていたと想像させます。
二葉家菓子舗の切山椒
箱を開けるとさらに「かっっこいい〜〜」
切山椒の盛り方や切羊羹が一緒に入っているところもセンスいい。
昭和33年までは遊郭とその周辺はお金が豊かに落ちたようで
ご主人の話では松葉など吉原周辺有名料亭から数十の注文が入るのもしばしばだったそう。
以前は料亭で楽しんだ後、廓へ流れるってのがパターン。余裕を持って遊ぶ場所だったんですねえ、ヨシワラ。
さておき、見た目も魅力的ですけどそのぶん手間も掛かっています。
山椒の粉と新粉(上新粉でない)を充分に練り混ぜてセイロで蒸し、
昔ながらの石臼でしっかり胴搗きしてるのですから、美味しくないわけがない。
しんこ餅らしいシコシコとした歯ごたえは咀嚼好きにはたまりません。鍛えよう、あご力。
新粉餅の性質上堅くなりやすいのですが、これを炙るとさらに風味が増して・・。
ここのはお餅と同じグリルで焼いて食べられるのですが、ウマ過ぎて・・くぅーっ。
そうそう、脇の切羊羹はごくあっさりした味でルックスと共に引き締め役として効いています。
蒸し羊羹はお得意なんでしょう、栗蒸し羊羹も素朴でイイ味出してました。
切山椒は年に2日(か3日)だけですが
通年つくる"菊最中"があまりに美味しかったので予約して再び買いに行きました。
平日だってのに午前中で売り切れてたから、やはり人気あるみたい。
屋号入りの香ばしい皮にあふれんばかり、いやあふれて挟みきれない粒あん。
トールサイズ最中では向島「青柳正家」の菊最中がこしあんですが こちらは粒。
戦後まもない、甘いものが貴重な時期に先代が「あんたっぷりで喜ばれる」と創製したものです。
とろっと柔らかでまったりした口あたりのあんは最後までおいしく頂けます。
甘みの引きが良いのはさすが、純度の高い白双糖を使って、2日に渡りじっくり丹念に小豆を蜜漬けしていくそうです。
この価格で"白ザラ蜜漬け"は驚きですが、職人気質で手抜きできないんでしょうね。
3度出かけるうちに店頭のお菓子は全種類いただきました。
普段使いの生菓子が主で、仕上がりもきれい。
素材の色あいを生かした美しさは空也、あるいは東海の生菓子に通じる江戸の菓子の趣です。
下に画像を並べたのでご覧いただければ。
求肥:あん玉を入れた求肥にあんのそぼろきんとん
きみしぐれ:黄味餡しぐれにこしあん入り 焼き目を付けて
どらやき:しっとりしたフワフワ皮とつぶしあん
これも求肥:カステラを巻いた個性的な菓子
茶まんじゅう 右:吹雪のつぶしあん断面
3度出かけて出会ったすべての御菓子です。
普段の生菓子は着色せず、あるがままの魅力を湛えています。
ご主人も癒し系ボイスの女将さんも穏やかな人柄ですし、お店もステキ。
好きな御菓子屋がまた増えました。
存在感ある"切山椒"、三の酉11月26日の入手は予約が確実かと。
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過去の切山椒・切羊羹関連記事
金龍山浅草餅本舗
金龍山浅草餅本舗と鷲神社と竜泉「おし田」(2008年)
龍昇亭西むら
鎌倉「長嶋家」
日本橋「長門」切り羊かん
★お店と菓子のデータ
●二葉家菓子舗:台東区千束3−27−8浅草どっとこむ
・切山椒(消費期限2日):一箱に切山椒、蒸し羊かん詰合せ1100円(砂糖、小豆、新粉、黒糖、小麦粉、片栗粉、葛粉、山椒、塩、赤色104号)
・自分用来歴メモ:元は根岸に営んでいたが三代前(ご主人の祖父)の時代に深川須崎に移る。 その後のれん分けされた先代が柳橋に開業。一時は須崎と柳橋が並行していたが須崎は閉店。 柳橋の店は戦災で焼失したため先代が昭和23(24?)年、現在地に移転。現在は先代のもとで修行したご主人がほぼ一人で菓子を調製、小売を主に営む。花街・廓と共に歩んできた控えめかつ粋な御菓子屋。佃島「二葉家」は親戚筋。
●金龍山浅草餅本舗:浅草仲見世 水曜休 切山椒:600円。1000円
※メモ:境内屋台(荒川せいめん?)は一袋1000円、黒糖なし、白餅に赤えんどう入 冷凍ok。
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江戸時代って行ってみたいなぁ。
なんだか読んでいたら江戸時代にて行ってみたくなりました(^^)
うちの近所では梅園くらいしか切山椒を売っているところが思い浮かばないのですが、やはりお店によって個性がありますね。
ところでこちらのお店のどらやき、これも求肥(って菓名なの?(笑))、吹雪の気泡が興味深いです〜。なんだかすごくスポンジっぽい気がするんですけど。
二葉家の女将さんに教えてもらったんですけど切山椒を焼くなんてワタシも初めて知りました。
口の中で広がる山椒の風味がなんだか風邪に良さそうなかんじ。この最中、あんをフォークで掬って食べるのがいいんです。
ワタシもワープしてみたい江戸時代。この頃の人々ってかなりミーハーで行列や殺到が大好き。すべて徒歩移動のせいかやたら餅菓子が多いです。
土曜日から梅園製食べ始めさっき完食しました。
悪くないけど色が強烈&焼けそうなかんじがしません。
>お店によって
画像の三種類は全部冷凍を試みたけど屋台モノはそのまま解凍できちゃった。二葉家製は固くなっても焼けばいいので冷凍可と言え無くもない。
ま、さっさと食べればいいんですけどね。
ここのはどれも菓銘が書いてないんですけど、どらやき だと思う(笑)
ドラ皮は確かにスポンジケーキっぽいかも。吹雪はむしろ伊勢芋の薯蕷生地の方向かなあ。